スポーツの世界では、努力や技術と同じくらい、「水分補給」が結果を左右すると言っても過言ではない。そんな時代になっています。

どれだけ練習を重ねて試合に備えてきたとしても、当日の水分管理をおろそかにすれば、パフォーマンスは知らず知らずのうちに低下し、時に身体に深刻なリスクをもたらします。それなのに、水分補給は「当たり前のこと」として軽く扱われがちです。

 

 

 

のどが渇いたと感じたとき――その時点ですでに体は軽度の脱水状態にある。そんな事実をご存じでしたか?

水分をいつ、どれだけ、どのように摂るか。
それによって、あなたの持つ力が存分に発揮されるのか、それとも知らず知らずの間にパフォーマンスが落ちていくのかが左右されます。

 

今回は、アスリートにとって不可欠な「水分補給」について、科学的な視点と実践的な知識を交えながら解説していきます。競技レベルにかかわらず、運動するすべての人に役立つ内容です。

 

脱水の影響は思った以上に大きい

まず知っておいてほしいのは、「脱水」はとても身近で、しかも静かに、でも確実にパフォーマンスをむしばんでいくということ。

体重のわずか2%の水分が失われると、筋肉の出力や持久力が低下しはじめます。5%も脱水が進めば、頭痛やめまい、吐き気、集中力の低下といった、いわゆる「脱水症状」が現れます。

そして最も厄介なのが、「のどの渇き」は脱水の初期症状ではなく、“すでに脱水が始まっている証拠”だという点です。
つまり、「のどが渇いたな」と思ったとき、あなたの身体はすでにダメージを受け始めている可能性が高いということ。

だからこそ、いま多くのスポーツ現場では「渇く前に飲む」という“予防的水分補給”が強く推奨されています。

 

いつ、どれだけ飲むべきか?〜基本の補給タイミング〜

では、実際にどのタイミングで、どれくらいの水分を摂ればいいのか?

これは以下のようなガイドラインがあります。

 

  • 運動前:運動の2~4時間前に、体重1kgあたり5~7mlの水分を摂取。
  • 運動中:発汗量に応じて、1時間あたり0.4~0.8Lの水分を目安に補給。
  • 運動後:失った体重1kgあたり1.25~1.5Lの水分補給が推奨される。

例えば、練習で1kg体重が減っていたら、単純に1リットルの水では足りません。1.25~1.5リットルは必要になります。

こうした数値はアメリカスポーツ医学会(ACSM)などの国際的なガイドラインにもとづいており、多くの現場で取り入れられています。

尿の色によっても大まかに脱水状態を確認することができます。

下の図をご参考下さい。

 

水だけでは不十分?電解質の補給がカギ

水分と聞くと、つい「水」そのものを思い浮かべがちですが、汗と一緒に失われるのは水分だけではありません。
ナトリウムやカリウムといった「電解質」も、大量に体外へ排出されます。

これらを補わずに水ばかり飲むと、かえって体液のバランスが崩れ、筋肉のけいれんや、重篤な場合には低ナトリウム血症を引き起こすこともあります。

特に1時間以上の運動をする場合には、ナトリウムを適度に含むスポーツドリンクの利用が効果的です。
「水分補給=水だけ」ではない、というのは覚えておいて損はありません。

 

冷却×補給の最前線「アイススラリー」

最近注目されているのが、「アイススラリー」と呼ばれる、シャーベット状のドリンクです。
このアイススラリー、ただ冷たいだけじゃありません。普通の冷水よりも効率的に深部体温を下げる効果があると、いくつもの研究で報告されています。

たとえば、2010年代の研究では、夏場の暑熱環境下での体温上昇を抑えるのに、アイススラリーが非常に有効だったという結果も出ています。
今ではコンビニのアイス売り場でも見かけるようになり、手軽に取り入れられるようになりました。

特に夏場の屋外競技や、長時間の試合前には、この“冷却補給”がパフォーマンス維持に直結する可能性があります。

 

ポカリスエットで有名な大塚製薬からもアイススラリーが発売されています

ポカリスエット アイススラリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬

 

野球のようなインターバル競技では“戦略的補給”を

野球のように、プレーと休憩が交互に訪れる競技では、“いつ飲むか”がカギになります。

例えば、イニングの合間などのタイミングで、こまめに水分と電解質を補給することで、疲労感や熱中症リスクを抑えながら、集中力を持続させることができます。
ただなんとなく飲むのではなく、“戦略的に補給する”という意識が、トップアスリートとそうでない人の差を分けるかもしれません。

 

 

最後に

水分補給は「地味」で「当たり前」に見えるかもしれません。
でも、侮るなかれ。
適切なタイミングと内容での水分補給は、パフォーマンスの向上だけでなく、熱中症の予防や怪我のリスク低下など、多くの面であなたを守ってくれます。

「のどが渇いたら飲めばいい」――そんな時代は終わりました。
水を飲むタイミングで、勝敗が決まる時代が来ているのです。

 

参考文献:

Armstrong. L.E: Performing in Extreme Environments. Human Kinetics. Champaign. IL. (2000).

大塚製薬:ポカリスエット アイススラリー.ポカリスエット公式サイト.